■煙突・煙道火災について■
薪ストーブでは良く聞く話ですが、ペレットストーブにおいても使用者の間違った取扱いや煙突・排気筒の施工状況、使用するペレット、メンテナンス状況によっては発生する場合があります。ここでは煙道火災に対する考え方やテルモロッシのペレットストーブの場合について検証実験を行ったのでまとめてみました。
■ペレットストーブの煙道火災のメカニズム
煙道火災は下記段階を経て起こる現象と考えます。
1.煙道内が低温で結露して煤が付く。
2.未燃性ガス成分が凝縮してタールや木酢などがが煙道内に堆積する
3.不燃ガス(不完全燃焼の煙)が煙道(排気筒内)に充満して一気に火が付く。
4.その熱で堆積・付着した木酢やタールが気化して引火し燃える。その後堆積している煤が
燃える。
簡単に言うと「不完全燃焼」と「煙突内の結露」が煙道火災の原因です。
※結露には水分の結露と未燃性ガス成分の凝縮(タールなど)に分けられます。
※煙道火災は堆積物を燃やし尽くすまで燃焼します。堆積物が多い程、火災のの時間は長く
なります。
■燃焼における排気ガス成分の変化
上記はガソリンを燃焼させた時の排気ガス成分の排出の変化を表したものです。ペレットストーブにおいても傾向は同じです。
グラフ中心(ラムダウインドウ1)は完全燃焼に近い燃料と燃焼空気のバランス値とお考え下さい。これを基準に左に行けば行くほど燃焼に必要な空気が不足している状態です。
逆に右に行くほど空気が過剰な状態を示しています。
グラフの左側はペレットストーブにおける不完全燃焼の状態とお考え下さい。
CO:一酸化炭素
CO2:二酸化炭素
HC:炭化水素(ハイドロカーボン)
O2:酸素
上記は一定理論の計算式で求められた木材の燃焼ガス温度を含水率、空気比の違いを比較したもので。絶対値は別として傾向だけ見て下さい。
■2つのグラフからわかること
<ここがポイント1!>
不完全燃焼になればCO2が減りCOを増える。注目して頂きたいのはCOとほぼ同じ傾向にあるのがHC炭化水素です。
未燃焼成分のHC炭化水素が凝縮されると木タール、木酢となり煙道内に堆積します。
これが煙道火災の原因です。
<ここがポイント2!>
燃焼空気(酸素)を多く供給すると不完全燃焼は解消されます。ペレットストーブにおいては
ペレットの供給量を減らして、吸排気ファンの回転数を上げるて燃焼空気をどんどん増やせば
問題ないと思いがちですが、グラフの右側を見ればわかる様に過剰なO2が増えて、HC炭化水素が増えています。これは過剰な空気の燃焼にエネルギーが使われ結果として燃焼ガス温度が下がる為に不燃ガス成分のHCが増える結果となります。
<ここがポイント3!>
ペレットストーブにおいてはそのシステムより空気が過剰で長時間燃焼させる事はほんどないので燃焼空気不足による不完全燃焼を注意する必要があります。
ストーブ自体の性能評価としてEN規格ではCO(一酸化炭素)の排出量を規定しておりメーカーは検査機関での認証を受けてペレットストーブへ表示しております。
この数値はストーブの性能評価の最重要項目です。
COの排出量が少ない程バランスの良いストーブと言えます。
<テルモロッシのモナムールの場合>
標準燃焼時のCO排出量:106.8mg/m3 (EN14785:2006では500mg/m3以下)
弱燃焼時のCO排出量:553.2mg/m3 (EN14785:2006では750mg/m3以下)
※こちらの数字を他社と比較して下さい。CO排出量が少ない機種がバランスの良い燃焼で
より完全燃焼に近いペレットストーブです。
■ペレットストーブにおける未燃性ガス成分の凝縮の具体的原因
煙道火災の要因はこの未燃性ガスの凝縮によるタールなどの堆積です。
排気温度が150℃以上であれば問題ないと言われています。
不完全燃焼状態で排気温度が低い事が原因です。
この現象を作っている要因が
■含水率が多いペレット燃料の使用
■燃焼空気不足
■長時間の弱燃焼(※結露しない排気温度であれば問題ない)
■燃焼皿のクリーニング不足、クリンカーの生成
■ストーブ、排気筒のクリーニング不足
含水率に関しては木質ペレットの規格品でしたら10%未満で現実的には5~8%以内で作られているのが殆どなので排気温度が150℃以下でも完全燃焼に近い燃焼をしているペレットストーブは薪ストーブの様にタールなどの堆積は見られないのが現状です。
■不完全燃焼を防ぐには
不燃ガス(不完全燃焼)の充満は燃焼皿の掃除が不十分で燃焼空気が十分に送られず着火せずに燻された状態が長時間続いた場合や燃焼中に立ち消えして同様に燻される状態が長時間続いた場合に起こります。また粗悪なペレットを使いクリンカーが生成されると同様な事が起こります。この様な状態にならないようにするためには、燃焼皿に不燃ペレットを溜めすぎない事が最重要です。また着火失敗後には燃焼皿のペレットは取り除いて下さい。
燃焼皿の点検、掃除は燃焼皿の空気穴が塞がっていないか使用前に行って下さい。
ヨーロッパのEN規格ではペレットストーブはスムーズに煙が排出されて不完全燃焼が起らないように下記の様に煙道(排気)を阻害するおそれのある行為を禁止しております。
1.燃焼器や煙道にダンパーを設けてはならない。
2.リデューサなどで煙道を縮小してはならない。
3.鳥が侵入しないように排気トップへ網を付けてはならない。
特に注意が必要なのは着火時に手動でダンパーを操作して空気量を調整しなければならないようなペレットストーブです。またむやみにストーブのパラメーターを調整するのは良くありません。操作を誤れば不完全燃焼が増大して未燃ガスが凝縮されタールなどが排気筒内に堆積して煙道火災の原因となります。この様な状態になる前にはガラスがすぐに黒く汚れるなどの兆候が必ずあります。事前にユーザーへこの様な兆候が見られたら連絡するよう伝えて下さい。燃焼室や排気筒にタールが見られるようですと原因が必ず有ります。
煙道内の煤は炭素なので燃えますが再び気化することはないので煤だけでは燃えにくいものですので仮に火の粉が飛んできても燃えることはほとんどありません。しかしながら、年に1回または2回は煙突を掃除して煤と灰を除去して下さい。
■結露を防ぐには
結露が最大の問題となるのは煙道火災に繋がる他に煙突内の腐食があります。
※ペレットストーブで木質燃料を燃焼させる際に発生する木ガスは酸性度が高い
(pH1.5~3.75)
通常ペレットストーブは完全燃焼に近いので煙突内は乾いた状態です。結露する場合は排気温度が52℃以下になっていると推定されます。
ペレットボイラーにおいては温水温度が52℃~60℃以下の場合は循環しない様にしたり、三方弁にてショートサーキットを組みます。これは燃焼排気ガスが結露するのを防ぐ温度とされています。ペレットストーブにおいてもこの温度を基準にするべきと考えます。
結露しない条件は煙突の排気口付近の排気温度が52℃以上と考えるのが妥当です。
■結露を防ぐ具体策
結露を防ぐ効果的な方法は断熱材入りの二重管の煙突にする事です。未燃ガスが冷却されずに排出されるので結露しません。
二重管は高価で重く基本的には薪ストーブの屋外用に使用されます。ペレットストーブの場合
でも北海道のような寒冷地では屋外で立ち上げる場合は二重管は必須です。
イタリアではペレットストーブの排気管は簡易煙突で沢山設置されています。排気ファンが装着されているペレットストーブにおいては必ずしも断熱二重管は必要ではありません。ストーブの性能、地域や周辺の環境により煙突の形態は変わっても良いと思います。但し、あくまで
結露しない事が条件となります。
テルモロッシのモナムールで実際に排気温度計測した結果を下記へ示します。
■テルモロッシのペレットストーブの排気温度計測
テルモロッシのペレットストーブの排気温度を測定して断熱二重管が必要な環境基準を把握します。テスト機は最新モデルの「Mon Amourモナムール」でテストしました。暖房能力はエコサーモ1000と同じですので排気温度も同等レベルです。テスト環境はストーブ本体排気筒共に排気温度が上がり難い屋外で実施しました。煙突は弊社標準セット「SAVEシステムⅠ」を使用
しております。
■排気温度計測結果
モナムールの排気温度は着火モード(20分)終了から通常運転モードへ切り替わった時点で85℃以上を計測しております。当然ですが排気管の結露はありません。
テルモロッシのストーブ自体に手動のダンパーは装着されていませんので外気温11.8℃の時の
最低排気温度はシングル管1m立上げで85℃以上と判断出来ます。
排気温度はシングル管の場合、外気温の影響を受けます。単純に考えるとテルモロッシのペレットストーブにおいてはシングル管1m立上げの場合に排気温度が52℃以下になると思われる外気温度は
11.8℃-(85℃-52℃)=-21.2℃(結露が予想される限界の外気温度)
燃焼のバラツキや安全率を考慮すると
テルモロッシのペレットストーブの排気管は外気温度が-10℃以下となる地域に設置する場合、屋外の立上げ排気管は断熱二重管にて施工して下さい。
また-10℃以下とならない地域の場合、屋外のシングル管での施工は総煙突長さ1.5m程度なら問題ないと思われます。
※ユーロストーブでは機器の取扱説明書と一緒に点火前注意事項として日々のメンテナン
ス方法の資料を添付させて頂いております。是非、ユーザー様と一緒に熟読下さい。
■煙道火災に備える壁抜き構造について■
煙道火災(1000℃)に対応するには高温時の熱伝導率が小さい空気層とロックウールなどの断熱材を合わせて施工する必要があります。万が一に備えて少しの工夫で対応出来ます。
<断熱システムによる温度変化計算例>
計算条件:排気筒内径Φ80 外気温10℃ 断熱材ロックウール密度123kg/m3
利用計算式 http://www.hakko.co.jp/qa/qakit/html/s01050.htm より
■断熱材外周部の温度
|
A:厚さ2㎝の断熱材のみ |
B:厚さ1㎝の空気層+2㎝の断熱材 |
排気温度:80℃ |
20℃ |
12℃ |
排気温度:200℃ |
43℃ |
17℃ |
排気温度:300℃ |
71℃ |
22℃ |
排気温度:1000℃ |
413℃ |
74℃ |
想定 200℃:テルモロッシ排気温度 300℃:国産ストーブ排気温度 1000℃:煙道火災時
※Bのシステムの場合、煙道火災が続いても壁に延焼しない温度に抑えられる。
■今後の展開■
今後の展開としましては寒冷地用の断熱二重管の標準セットを販売したいと思います。
またヨーロッパでは排気に対する耐食性の規格より煙道はSAVEのようなホーロー挽きかステンレスの材質SUS316Lを使用するように定められています。
断熱二重管はSUS316Lを使用した排気筒セットにしたいと思います。